YMCA NEWS 2020年8月号|パラ競泳 富田宇宙選手[2]

パラリンピックで社会を変える
KUMAMOTO YMCA NEWS No.573/2020.8 >>> 掲載紙(PDF)はこちら

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富田宇宙(とみた うちゅう)さん
パラ競泳アスリート/YMCA水泳教室元メンバー


夢から逆算した毎日を送る

富田さんが子どもたちに注ぐ視線にも強い思いがあります。「子どもは遠慮がありませんよね。僕が泳ぐと『目が見えない人が自分たちより速く泳ぐ!』と驚くんです。子どもたちにいろんなバリエーションで、想像を超えるものを見せたり多様性にふれさせて衝撃を与える。その瞬間を自分がつくれたらいいですね」。

子どもたちの前で講演する機会も多い富田さんは「自分の可能性を広げきれていない子どもの存在が気になります」と話します。「例えば、子どもが『サッカー選手になりたい!』って言っても、ほとんどの大人は内心『無理だ』と思ってそのままにしますよね。でも、環境さえ整えばチャンスはあるかもしれません。才能なんてどう芽生えるかわからないから最善を尽くしてあげてほしい。そして、それでも芽が出なかった時に、『この子が本当に好きなものって何かな、向いているものは何かな』って一緒に次の目標を考える。そういうプロセスで人生にチャレンジしていくことが大切なんじゃないかと思うんです。夢って、自分の知識の範囲でしか見られませんよね。この子が、大人の自分すら見たことのない世界に行くにはどうしたらいいんだろうと考えたい。いろんな場所に連れていって、いろんな感動、世界にふれさせたい。それが子どもの可能性を広げることにつながるんじゃないでしょうか。

小学生の頃にYMCAのスイミングに通っていて、まさか自分が世界を舞台に泳ぐなんて想像もしていませんでした。目が見えない僕でさえ、世界各地へ行っていろんなことにチャレンジしたり、そこから学んだことを発信したりしています。ということは、子どもたちにはもっと大きな未来が眠っているはずです。『すべての子どもに無限の可能性がある』ということをしっかり念頭において応援していかなければと思っています。そして、大きな夢から逆算して、いつか望む場所に行けるように毎日を送ることが、夢を実現する唯一の方法だということを伝えていきたいです。

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6月、熊本でトレーニングを行う富田さん(YMCAみなみセンター)
 

非日常体験が広い世界につながる

社会の変容への働きかけと子どもの未来をみつめる考え方は、自身の経験にも関係があると富田さんは語っています。「子どもの頃、YMCAのキャンプをはじめ、様々な野外活動を体験する機会に恵まれました。当時の仲間には海外で研究している人や、無医村の医者として活躍している人もいます。子どもの頃の非日常体験が刺激となって、もっと面白い世界を見てみたい、広い世界で活躍したい、と彼らを突き動かしているんじゃないかと思うんです。野外活動が、発達障がいの子どもも含め、子どもの心身の発育によい影響を及ぼすという科学的エビデンスがたくさんあります。そのような取り組みを社会システムとして継続していく場がYMCAでもありますね」。

大学院での研究、取材、講演など、競技以外でも忙しい毎日を過ごす富田さん。「でも、アスリートとして実績を残さなければ基盤がくずれちゃいますから。 誰よりもしっかりやって結果を出してこそ、理想が語れるんです」と、今日もハードなトレーニングをこなし、パラ水泳に挑んでいます。

 

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